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訪問診療を開始して劇的にお元気になったケース①

 

みなさま、こんにちは。今回から、訪問診療を開始後、劇的にお元気になったケースについて紹介していきたいと思います。

 

訪問診療は、毎月1回以上の定期的な診察と、体調悪化時等の臨時の対応を組み合わせて行う診療です。例えば、慢性のご病気、心不全や呼吸不全などに加え、脳梗塞後遺症による麻痺や加齢による筋力低下、認知症の進行などで通院が難しくなった方などが多く、治療によりどんどん元気になることを目指すというよりは、体調を維持し、発熱や原疾患の増悪などの体調悪化時に速やかに治療を開始することで重症化を防ぐ、そういったことが訪問診療の大事な役割です。また、最近では癌が進行して治療が困難な方の在宅療養を支援するケースが増えており、癌を治すための積極的な治療(抗がん剤治療等)ではなく、つらい症状をできるだけ和らげるよう、最大限の専門的な緩和ケアをご自宅で行う、そういったことも増えています。そのため、訪問診療を開始することで劇的にお元気になるケースというのは、それほど多くはありません。

 

今回は、訪問診療を開始後、薬を大幅に整理しただけで、劇的に元気になったケース(実例を元にした架空の事例)を紹介いたします。私は、今回と同じようなケースを、少なくとも10例くらいは経験しています。

 

読者の皆様の中にも、糖尿病や高血圧症などの生活習慣病で、継続して薬を飲んでいる方もいらっしゃるかと思います。よく、糖尿病や血圧の薬は一生飲み続けなければいけないと言われます。でも、実際はどうでしょうか? 年齢とともに食事の量が減り、塩分摂取量も減ると、自然と血糖値や血圧が下がってくることもあるでしょう。また、年齢とともに、肝臓や腎臓などの機能が低下し、薬を分解して排泄する能力が低下していきます。そうなると、薬を減量したり中止したりすることが必要です。働き盛りのお元気であったときに飲んでいたのと同じ薬を同じ量飲み続けることは、実は危険な場合もあります。

 

93歳のA子さんは、高血圧、糖尿病、高脂血症などの持病があり、40年来、近くのクリニックに通院し、ほぼ同じ薬を飲み続けていました。また、眠れないときがあり、時々精神安定剤を飲んでいました。85歳頃、骨粗鬆症が原因で腰椎圧迫骨折を発症し、腰痛のため痛み止めや湿布を続けていましたが、だんだん歩くのが大変になり、さらに体力が落ちて、いよいよ通院することが難しくなってきました。1年半前から自宅でほぼ寝たきりとなり、通院が中断、息子さんが薬だけもらいに行っていましたが、「受診しないと薬は出せない」と言われ、訪問診療を導入することになりました。

 

初診でご自宅に伺うと、A子さんは畳の上の布団で寝ていました。ご家族にお話を伺うと、5年くらい前から認知症を疑うような症状があり、ご飯を食べてもすぐに「ごはんはまだ?」と尋ねるようになり、その後はしだいにお箸やスプーンの使い方もわからなくなり、最近ではご家族が介助してようやく少しだけ食事をとっているとのことでした。トイレに連れて行くのも大変になり、最近はオムツを使用し、入浴もずっとしていませんでした。日中はうとうとしていて、夜になると少し目が覚めて、大声を出して家族を呼び、よく理解できない行動をすることが増え、精神安定剤を飲ませて眠られているとのことでした。高血圧や糖尿病、高脂血症などの薬は、かかりつけの先生に「ずっと飲み続けなさい」と言われたとのことで、一日も欠かさず飲ませていました。本人に問診をしましたが、声は弱々しく、簡単な質問には頷いたり首を振ったりするものの、会話は難しい状態でした。

 

診察では、血圧が82/48と低く、非常に痩せており、背中から臀部に褥瘡ができていました。足のむくみも目立ちました。私は、血液検査を実施するとともに、薬を大幅に整理することにしました。高血圧や糖尿病、高脂血症の薬は中止、精神安定剤も中止し、どうしても眠れないときのみ使用できるよう、ふらつきや転倒などの副作用の少ない、ご高齢の方でも比較的安全に使用できる睡眠薬を処方しましたが、睡眠薬はできるだけ飲ませず、日中頑張って起きていただき、夜に自然と眠れるように生活リズムを整えてもらうようにしました。褥瘡については、被覆材を貼って皮膚を保護するとともに、介護保険を活用してマットレスを導入していただきました。

 

血液検査では、食事量の減少によるものか、栄養状態が悪く、軽度の貧血も認めました。また、肝機能、腎機能、心機能の低下を認めました。血糖値は65、HbA1c4.6と低く、食事量が減少しているにもかかわらず糖尿病の薬を続けていたことで、慢性的な低血糖状態であったと推測されました。血糖=ブドウ糖が、脳細胞にとっての唯一の栄養源であり、低血糖状態が続くと、脳細胞の働きが低下します。慢性的な低血糖が認知機能低下の一因であったのかもしれません。

 

1週間後に再診したところ、初診時とは別人のようで、椅子に座って笑顔で出迎えてくださいました。声に力があり、質問にもわりとしっかり答えてくれました。食事量も大幅に増え、スプーンで自ら食べるようになっていました。ご家族が介助すれば、トイレにも行けるようになりました。血圧は120/70と改善、褥瘡も改善傾向でした。

 

それから半年後、食事量や塩分摂取量の改善に伴い徐々に血圧や血糖値の上昇を認めたため、最少量の長時間作用型の降圧剤と、血糖値が高いときだけ作用するタイプの糖尿病の薬、その他必要最小限の薬だけを継続しています。食欲も睡眠も良好です。一人での外出は不可能ですが、家の中ではなんとか手すりなどにつかまってトイレにも行けています。週に2回デイサービスに行くようになり、笑顔も増えてきました。初診時とは別人のようにお元気に過ごされています。

 

訪問診療を開始し、薬を大幅に整理しただけで、劇的に元気になったケースを紹介しました。このようなケースは決してまれではありません。体の状態に応じて薬は常に見直すこと、対面での診療を受けずに薬を飲み続けるのは時に危険であること、薬による治療だけではなく訪問診療で生活全般を見直すことで体調が改善する可能性があること、などをご理解いただければと思います。

訪問診療を開始して劇的にお元気になったケース②

 

みなさま、こんにちは。

今回は、訪問診療を開始後、劇的にお元気になったケースの2例目について紹介したいと思います(実際の事例を元にした架空の事例です)。甲状腺機能低下症も、巨赤芽球性貧血も、いずれもまれな疾患ではなく、訪問診療で診断することも時々あります。また、 皆さまご存じの通り、日本では高齢化が進み、認知症の患者さんも増えています。認知症は、誰でも年齢とともに発症する可能性があり、特別なものではありません。認知症と診断されていても、お元気に過ごされている方もたくさんいます。認知症にも様々な分類・原因があります。一番多いのはアルツハイマー型認知症で、現代の医学では根本的な治療法はありませんが、一部、治療により改善が可能な認知症もあります。

 

82歳のB子さんは、半年ほど前から「物忘れがひどくなった」とのことで、病院の脳神経内科でMRI検査等を受け、アルツハイマー型認知症と診断されました。その後、認知症の進行とともに、両下肢のしびれがひどく、歩行にも支障をきたすようになり、車椅子生活となってしまいました。トイレにも自分で行けなくなり、病院への通院は難しいため、当院の訪問診療が開始となりました。

 

初診時、無表情で、わりとしっかりお話しされていましたが、同じ話の繰り返しが目立ちました。最近はとても疲れやすく、あまり動く気がしないとおっしゃっていました。身体所見では、脱毛が目立ち、眼瞼結膜(まぶたの裏側)に明らかな貧血所見(白くなる)を認め、顔色もやや悪く、両下肢に浮腫(むくみ)を認めました。両足先を中心にしびれが強く、知覚の低下や軽度の運動障害(足首から先や足の指が動かしにくい)も認めました。本人の自覚はありませんが、ちょっと体を動かしただけで息切れが目立ちました。

 

病院からの診療情報提供書を確認すると、軽度の貧血を認めていました。そのため、初診時に、貧血の鑑別や認知症の鑑別に関わるいくつかの項目を含めた血液検査を実施しました。その結果、ヘモグロビン8.0と明らかな貧血(大球性貧血)を認めました。数日後に詳しい検査結果が判明、ビタミンB12が著しく欠乏しており、そのため「巨赤芽球性貧血」をきたしていると考えられました。また、甲状腺ホルモンの値が通常よりかなり低く「甲状腺機能低下症」と診断されました。

 

ビタミンB12は、血液を作ること(造血)や、末梢神経の働きに関わるビタミンです。胃切除後に欠乏することが多いのですが、B子さんは胃の手術歴はなく、さらに血液検査で詳しく調べたところ「内因子」と呼ばれるビタミンB12を吸収するために必要な物質に対する自己抗体ができており、ビタミンB12が吸収できていないと考えられました。また、甲状腺ホルモンは、体の様々な働きに関与する、人間が生きていくために必要なとても大事なホルモンです。甲状腺ホルモンが不足すると、短期記憶障害などの認知機能低下、全身倦怠感(だるさ、疲れやすさ)、心機能低下、うつ傾向、浮腫などにつながります。

 

ビタミンB12については適時筋肉注射を実施、甲状腺ホルモンについては内服薬での投与を開始しました。投与開始とともに、速やかに貧血は改善し、動いたときの息切れや、疲れやすいとの症状は著明に改善しました。足のむくみも改善し、約3か月後には足のしびれも改善し、家の中で手すりにつかまって歩けるようになり、トイレにも自分で行けるようになりました。また、笑顔も増えて活動的になり、同じ話の繰り返しも減り、会話も弾むようになりました。

 

その後もB子さんはお元気に過ごしています。週に3回のデイサービスで、運動をしたり、カラオケをしたり、同世代の方とお話をすることをとても楽しんでいます。認知症は少しずつ進行しているようですが、今の生活では目立った支障はなく、ご家族の温かい眼と少しの介護で見守られながら、穏やかに過ごすことができています。

 

訪問診療を開始し、身体症状の原因について血液検査で鑑別することができ、薬による治療ですごく元気になったケースを紹介しました。このように、負担の少ない必要最小限の検査や治療を実施することで、質の高い在宅療養を継続することができるケースもあることをご理解いただければと思います。

 

どんな疾患でも在宅での療養は可能

 

みなさま、こんにちは。 今回のブログでは、私の著書“在宅医療と「笑い」”(幻冬舎)から文書を引用する形で、どんな疾患でも在宅での療養は可能であるということをお伝えできればと思います。

 

以下、私の著書からの引用です。

 

「早く家に帰りたい」と入院中の病院の主治医に訴えても、「家に帰るのは無理」と断られ、療養型の病院(長期入院可能な病床)や有料老人ホームなどを勧められるケースがあります。

 

しかし、患者さんや家族が在宅療養を希望しているのであれば、どんな疾患であれ、どんな病状であれ、在宅療養は可能であると私は考えています。

 

在宅療養を目指すうえで大事なのは「どんな生活がしたいのか」について明確なイメージをつくることです。そのイメージを元に、在宅でどこまでの治療を行うのか、どのような介護の体制を構築するのか、具体的な検討に入ります。無理な治療、無理な介護を望まない限り、在宅療養は必ず実現できるはずです。

 

入院中の病院の主治医や看護師は、当然のことながら、治療のことを最優先に考えます。病院の医療従事者の多くは在宅医療の現場を経験していませんから、自宅でどのような形でどこまで治療を継続できるのかをイメージすることが難しく、「家に帰るのは無理」という発言につながってしまうのだと思います。しかし、自宅に帰ってから大事なのは「どのような生活をするか」であり、治療はあくまで生活のなかのごく一部です。その観点で、退院して在宅療養を行うことができるかを総合的に検討すべきです。

 

たとえ重い病状であっても、必要に応じて在宅医・訪問看護師・訪問薬剤師のチームによる在宅医療を開始することで、入院中に近い形の医療を受けることができます。とはいえ、自宅に医師や看護師が常駐しているわけではないので、緊急時の迅速な対応という意味では劣ります。また、たとえば点滴治療については、毎日何度も訪問看護師が自宅を訪問して点滴をつなぎ替えるというのはマンパワー的にも費用の面でも困難であり、点滴の実施回数が限られ、点滴終了後の処置の一部を患者さん自身や家族に協力していただく場合があるなど、治療の制限が生じる場合もあります。

 

このような「自宅での治療の限界」を受け入れ、それよりも生活上のメリット、自宅での自由な生活を希望する場合は、どんな疾患であれ、どんな病状であれ、在宅療養は可能です。 そうなると、どのような生活を送るか、生活上のサポートが重要となります。同居の家族が主な介護者となるケースが多いと思いますが、近隣の家族が交代でサポートする場合もあります。それでも24時間体制のサポートは難しい場合が多く、介護保険サービスを利用して患者さんの生活を支えるケースがよく見られます(詳しくは私の著書の第3章で説明しています)。

 

私が白衣を着る理由

 

みなさま、こんにちは。 

私は普段、白衣を着て診療しています。

訪問診療を行っている医師で、白衣を着て診療する人は、少数派かもしれません。もちろん、絶対に白衣を着なければいけないと思っているわけでもなく、事前に患者さんの意向を確認して、「白衣NG」の患者さんのお宅には、白衣を脱いで訪問しています。

白衣を着て訪問診療することには、当然、メリットとデメリットがあると思います。私は、メリットの方が大きいと感じているので、白衣を着ることが多いわけです。

このブログでは、そのメリットについて説明したいと思います。

 

まず、私たちは主に日中、住宅地やマンションの中をうろうろして、患者さんのお宅に向かいます。初めての患者宅などで、迷ってしまい、キョロキョロ家を探しながら歩くこともよくあります。見知らぬ男性が大きなかばん(診療道具をたくさん詰めたかばん)を持ってうろうろ歩いていると、不審者と思われ、最悪の場合、警察に通報される可能性もあります。でも、白衣を着て、大きくクリニック名と名前を書いた名札をつけて歩いていると、まずその心配はありません。職業や身分を明らかにするために、白衣というのはすごく役立ちます。

 

私たちは、主に往診車で患者宅に向かいます。ちゃんと警察署から許可を得て、駐車禁止除外票を車のダッシュボードにおいて、できるだけ邪魔にならない安全な場所に車を停めさせていただきますが、それでも近隣の方からすると「何だ、この迷惑な車は」と白い目で見られることもあり、マンションなどだと管理人さんから強い口調で詰問されることもあります。でも、白衣を着て名札をつけて挨拶をすると、往診に来たことが一目でわかり、許してもらえることがほとんどです。これも白衣の力だと思います。

 

患者さんにとっては、「白衣高血圧」という言葉もあるとおり、病院などで白衣をみると緊張してしまうかもしれません。でも、私の経験上、訪問診療の現場ではそんなことはないと思います。私は、常に患者さんやご家族と対等に、同じ目線で、専門用語は避けて、世間話などを交えながら、できるだけお互いにリラックスしながら診療することを心がけています。私が白衣を着ているから、普段より緊張して血圧が上がる、ということはないと思います。

 

白衣を着ることで、例えば重い認知症の患者さんやご家族の方でも、「この人は誰だ」という疑心暗鬼や緊張感は与えず、スムーズに会話することができます。それもメリットだと思っています。

 

白衣を着ることで「偉そうにしている」と感じる方もまれにいるかもしれません。でも、私たちには全くそのような気持ちはありません。在宅医療は、患者さんを中心にして、その周りをご家族や医療・介護関係者がチームを組んで取り囲み、サポートしていくようなイメージです。そこには上下関係などは一切ありません。在宅医、訪問看護師、訪問リハビリ、訪問薬剤師、訪問歯科などの医療関係者や、ケアマネージャー、訪問介護士(ヘルパー)などの介護関係者など、たくさんの職種、たくさんの人が患者さんに関わり、それぞれの専門性を生かしながら、常に相談し、協力しながら、患者さんを支えています。私は、そのチームの中の一員として、在宅医としての役割を全うするために、見た目にもわかりやすいよう、白衣を着て患者さんに接しています。(白衣を着ていないと、外見上は何の職種か全くわからないと思います。)

 

訪問診療、在宅医療の世界に、正解などありません。100人の在宅医がいれば、100通りの考え方があります。白衣を着るかどうかも、正解などはなく、それぞれの医師がそれぞれの価値観で決めています。もし、近所で在宅医を見かけたら、白衣を着ているかどうか、着ていなければどんな服装をしているか、あるいはどんな荷物を持って歩いているかなど、ぜひ観察してみてください。

 

患者と介護士
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車椅子の患者と看護師
車椅子の患者
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歩行器で歩く男性
患者と看護師
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